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大阪地方裁判所 昭和51年(ヨ)3331号 決定

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別紙のとおり

右当事者間の地位保全等仮処分申請事件につき、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

本件仮処分申請を却下する。

申請費用は申請人の負担とする。

理由

第一、当事者の求めた裁判

申請人

「申請人が被申請人に対して労働契約上の権利を有することを仮に定める。

被申請人は申請人に対し昭和五一年一〇月一四日以降本案判決確定に至る迄毎月末日限り金六万六九〇三円を仮に支払え。」との裁判

被申請人

本件仮処分申請を却下するとの裁判

第二、当事者の主張

申請人

一、被申請人(以下会社ともいう。)は、建物警備、清掃、電話交換等建物の一般管理業務を目的とする従業員約二五〇名の株式会社であり、申請人は資格をとった後昭和五一年二月一〇日会社に雇傭され会社が清掃、電話交換等の業務委託をうけていた和泉市役所で電話交換手として勤務していたものであったところ、会社は同年九月一三日申請人に電話交換手から清掃係え(ママ)の配転を命じ申請人が之を拒否すると即日右拒否等を理由に同年一〇月一四日付で申請人を解雇する旨口頭で通告(以下本件解雇という。)し、以後申請人を従業員として取扱っていない。

二、しかしながら本件解雇は次のいずれかの理由で無効である。

(一)、不当労働行為

申請人は会社に入社してから間もなく待遇改善等を目的として労働組合の結成を図り泉州労連や市職組の指導をうけながら自ら中心となって同年六月二七日労働組合を結成し書記長に就任した上翌二八日会社と第一回団体交渉を開き以後も活発な組合活動を続けてきたところ会社は之を嫌悪して無茶な配転命令を発し次で本件解雇に及んだものである。

(二)、解雇理由の不存在及び解雇権の濫用

更に会社のいう解雇理由は存在しない。すなわち申請人を清掃係に配転する旨の命令も不当労働行為を目的とする無効なもので配転の必要性もないものであり、その余の解雇理由はいずれも正当な組合活動を一方的に非難するにすぎないものであるのみならず、右無効な配転命令を拒否するや即日解雇したことは解雇権の濫用である。

三、会社が昭和五一年一一月三〇日付を以て和泉市との業務委託契約のうち電話交換業務に関する部分の契約を解除したこと及び申請人が同年一二月施行された和泉市の電話交換手公募に応じて受験したが不合格となったことは認めるが、右業務委託契約解除は会社が労働組合の排除を目的として和泉市と通謀してなした違法なものであり、申請人が応募したことは何ら本件解雇を承認したものではないから、右の委託契約解除及び申請人の応募を前提として考えてみても会社の使用者としての責任が消滅するものではない。

(申請人は本件解雇の口実となった様な不当労働行為性の極めて強い配転命令は拒否したが、だからといって正当な配転命令まで拒否するとは限らない。)。

四、必要性

申請人は会社入社以来月額六万六九〇三円の賃金で生計を維持してきたものであって本案判決確定をまっていては生活上著るしい支障を蒙り回復し難い損害を受ける虞がある。

なお申請人は現在已むをえず喫茶店でアルバイトをしているが之は一時的不規則なものであるから保全の必要性は依然として存在する。

被申請人

一、申請人の主張一の各事実は認める。

二、同二の主張は争う。

本件解雇は後記(二)の理由によりなされた有効なものである。

(一)、不当労働行為の主張について

申請人主張の様に労働組合が結成され申請人がその書記長として中心的な活動家であったことは認めるが、会社が労組の存在や申請人の組合活動を嫌悪していたとの事実は否認する。

申請人は労組と遊離し組合活動に名を借りて個人的要求をしていたにすぎない。

(二)、会社は和泉市との間で市庁舎清掃業務、電話交換業務、市庁舎冷暖房業務、庁舎構内設備保守業務、ガラス清掃業務等を一括して一年毎の業務委託契約を締結し之らの業務を行っている関係上委託契約の各条項を遵守すべきは当然であるところ、右のうち庁舎構内設備保安業務として「印刷物の配布もしくははり紙、看板等を掲示させないこと」との条項があるにも拘らず、申請人は之に反し昭和五一年七月初会社ボイラーマン上野音松が同年一月九日業務中死亡した件につき会社が労災認定申請をなす等手を尽していたのに「市も中間業者(会社を指す。)も何らの具体的措置を講じていない。」等と事実無根の記事を記載したビラを配布して会社が従業員の災害に関して何ら意を用いない非情な使用者であるかの様な宣伝をして会社の信用を傷つけ、またその頃庁舎の一部屋の壁、窓ガラス等にベタベタとビラを貼りめぐらして前記和泉市との委託契約に反する行為をなして会社の信用を傷つけたりした為和泉市との委託契約の続行が危ぶまれる状態になってきたので申請人に対し同年七月八日本社(寝屋川市所在)えの転勤を命じたが拒否され更に同年九月一三日電話交換手が過員となったので清掃係えの配転を命じたが之も拒否されたので已むなく就業規則三三条八号、一一号を適用して本件解雇に及んだものである。

三、和泉市との前記業務委託契約のうち電話交換業務については昭和五一年一一月三〇日付で解除された。すなわち、右電話交換業務については昭和五一年度契約の当初から赤字が出ることが明らかであったが和泉市としても年度途中で補正予算を組むということであったので委託契約を続けることとした経緯があったところ、予期に反して補正予算上程の動きはなく、加えて申請人が同年九月二二日市議会を含めた市庁舎全部に行渡る庁内放送設備を無断使用したことに関して会社が和泉市当局から問責され始末書の提出を要求されたこと等もあって電話交換業務に関する委託契約は解除され当時の会社従業員中電話交換手は全員退職したものであり、その直後和泉市は電話交換手を直接雇傭すべく有資格者を公募し申請人も之に応じたが不合格となった経緯がある(申請人を支持する泉州労連や市職組の一部は会社の業務委託契約の打切、市の直接雇傭を主張していた。)のであって、仮に本件解雇が無効であったとしても前記委託契約解除の時点において申請人との雇傭契約は解除されている筈であるからこの点からしても本件仮処分は必要性緊急性を欠くものである。

四、なお、申請人は昭和五一年一二月以降他に勤務先を有し月収手取約六万七〇〇〇円の収入を得ているからこの点からいっても本件仮処分の必要性はない。

第三、当裁判所の判断

一、申請人主張の一の各事実は当事者間に争いがない。

二、そこで本件解雇の効力につき検討するに、

申請人は、本件解雇は解雇理由も存在しないのに不当労働行為を目的としてなされたものであり然らずとしても解雇権の濫用であっていずれにせよ解雇無効と主張するのに対し、

被申請人は、申請人には被申請人の名誉信用を傷つける行為及び業務上の指揮命令違反行為があったので就業規則に則り解雇したとして不当労働行為性を否認するので、先ず本件解雇に至る経緯を検討するに、争いのない事実及び疎明によれば、申請人は入社直後(昭和五一年四月頃)から泉州労連や市職組オルグの指導を受けて待遇改善を目的として労働組合の設立を図り同僚の電話交換手や和泉市役所を職場としている清掃係従業員らに説いて同年六月二七日労働組合結成大会を開くに至ったこと、会社代表者も当初は労組結成が和泉市との業務委託料増額交渉の好材料になるとして労組に対し必ずしも敵対感情を抱いていたわけではなかったこと、

しかし申請人以外の組合員らの間に労組を結成してみたものの会社の業態の特殊性もあって直ちには目に見えた改善の跡も現れないのに労組員としての義務の履行はきびしく督促されるとして労組活動の実質的な中心である申請人に対する反感が高まり、一方申請人も之に対して前記オルグの力を借り一般組合員に対し高圧的な態度に出たところから他の同僚との協調が失われてきたこと、

その間同年七月初に申請人が「会社は二〇件近くの労基法、職安法違反を犯しており、且つ同年一月九日和泉市立老人解放センターに会社から派遣されていたボイラーマン上野音松が急死した件につき和泉市、中間業者(会社を指す。)とも何ら具体的措置を講じない。」等と記載したビラ数十枚を配布し、また労組のビラや組合関係文書を電話交換室と続いている休憩室の壁や窓ガラスに一面に貼りつけたりしたことから、前者については会社としても右上野音松死亡後直ちに労災認定申請をして救済措置を講じていたのに事実に反する報道をなしたとして、後者については清掃業者である会社が自ら委託先の庁舎を汚したとして市当局に対する手前もあり申請人に対し注意する様になったこと、そこで会社は電話交換業務の円満な運営を図る為協調性に欠ける申請人を含む交換手二名に対し同年七月八日寝屋川市所在の会社本社えの転勤を命じたが拒否され同月二二日撤回したものの事態はますます険悪となってきたところに、会社が和泉市から委託をうけていた業務のうち受付業務が解除されてその担当者であった川崎セツ子が電話交換手に廻されてきた為電話交換手が過員となったので、同年九月一三日電話交換手の中では最も新参(尤も過員の原因となった川崎セツ子は交換手としては申請人より新参であるが会社入社歴は相当古く会社の指示で電話交換手の資格をとらせた関係から申請人よりも優先して処遇することとした。)であり、且つ同僚との折合も良くなかった申請人に対し清掃係えの配転を指示したが一議に及ばず拒否されたので即日本件解雇を通告したこと、

等の各事実が一応認められる。

三、以上認定の事実によれば、申請人が前記上野音松問題を記載したビラを配布した行為は事実に反する報道をなして被申請人が従業員のことに無関心な冷い会社であるかの如き感じを抱かせるものであり、市庁舎の壁や窓ガラスにビラや組合関係文書を貼りつけた行為はその文書等の内容や貼りつけた程度等の詳細は不明ながら市庁舎の清掃業務を委託されている会社従業員の行為としては穏当を欠くものであって、いずれも会社の名誉信用を傷つけた点なしとせず右各事実につき就業規則三三条八号違反の責任を問われることも已むをえないものがあるといわざるをえない。

一方本件解雇の直接の原因になったと解される清掃係えの配転拒否については、申請人が当時の電話交換手の中では最も新参であり且つ前記の様な事情で同僚との折合も悪かったと認められるのであるから電話交換手が過員であって誰かを転出させるとすれば申請人を人選したことには一応の合理性は認められないでもないが、当時における状況は電話交換手が一時的に過員になったといっても、半月もすれば(九月末になれば)その中の一人が結婚の為退職の予定であって過員は近く解消する筈であったし、申請人を配転し次で本件解雇した直後に短期アルバイトを入れていること等からすれば右配転命令を発した九月一三日の時点で強いて申請人を転出させなければならない丈の必要性は乏しかったといわざるをえず結局右配転命令は人事権の濫用として無効であり之に従わなかったことを以て就業規則三三条一一号にいう業務上の指揮命令に従わなかったとして問責することはできないといわねばならない。

そして申請人が右配転命令を拒否するや直ちに申請人を解雇(本件解雇)したことは申請人に前記の名誉信用の毀損による就業規則違反行為があることを併せ考えても解雇権の著るしい濫用であるというの外はないから本件解雇は之が不当労働行為であるか否かを問う迄もなく無効たるを免れない。

四、之に対し会社は、和泉市との業務委託契約のうち電話交換業務に関する契約は昭和五一年一一月三〇日を以て解除され交換手全員が退職したから申請人には復帰すべき職場はなくなり、且つ申請人自ら同年一二月施行された和泉市の電話交換手公募に応じたから申請人には地位保全の必要はなくなったと主張する。

右の電話交換業務につき委託契約の解除と申請人の応募の事実は申請人も認めるところであって本件の様に従業員に対する解雇が無効であっても当該従業員の従前の原職が廃止された場合には右従業員につき他の部門えの配転の可能性が認められない限り当該従業員は企業廃止の場合に準じ当該原職廃止の時点において従業員たる地位を失うに至ると解するのが相当である。

ところで申請人は資格を取得した後電話交換手として会社に雇傭されその業務に従事してきたものであって本件配転命令を一議に及ばず拒否したことからもうかがわれる様に清掃係等他の職種に変る意向は全くなく、且つ以前に寝屋川市所在の本社えの配転を通勤困難さも一理由として拒否しまた前記和泉市の電話交換手公募に応じたことからも明らかな様に和泉市役所の電話交換手としての勤務に固執し(申請人を支持する泉州労連や市職組の一部は電話交換業務の和泉市直営を主張し会社の排除を唱えていた。)ていたこと、会社は建物の一般管理業者ではあるが清掃と警備が主で昭和五〇年頃からは電話交換業務は本件和泉市との委託契約が唯一のものであった所、之が解除されるに及んで電話交換業務部門を全廃し当時の電話交換手全員を退職させていること、等を総合考察すると申請人の復帰すべき原職はなくなり且つ会社の他の部門(考えうるものとしては清掃係位である。)に配転することも申請人の従前の態度からみて不能と認められる(申請人は前記二回に亘る配転命令を拒否したのは不当労働行為性の強い命令だから拒否したにすぎず、凡ての場合に拒否するとは限らないというが、申請人が職種特定を強調していたこと等からすれば清掃等他の業務えの配転に応ずるとは認め難いので右主張は採用し難い。)から、本件解雇は無効であるが申請人は昭和五一年一一月三〇日の会社と和泉市との電話交換委託契約の解除(申請人は右契約解除も不当労働行為であるというが採用し難い。)の日を以て会社従業員たる地位を失ったものというの外はない。

五、以上の通りであって、本件申請のうち従業員たる地位の保全を求める部分は被保全権利の疎明がないことに帰し、また金員の仮払を求める部分については昭和五一年一〇月一四日から同年一一月三〇日迄の分は被保全権利は一応認められるがその余の分については被保全権利の疎明がなく、右の被保全権利の存在が一応認められる分についても申請人は一時的なアルバイトながら昭和五一年一二月以降月収約六万七〇〇〇円を得ていることを自認しているのであるから過去の一ケ月半分の賃金の仮払を命ずる迄の必要性は乏しいと認められるので、結局本件仮処分申請を却下することとし申請費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 今富滋)

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申請人 岩佐洋子

右申請人代理人弁護士 上坂明

(ほか五名)

被申請人 関西マネジ興業株式会社

右代表者代表取締役 菅岡一隆

右被申請人代理人弁護士 田中美智男

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